昔は母子家庭というと、白い目で見られる事も多かったが、今の時代は母子家庭や父子家庭(総じてひとり親家庭と言う)の割合は増加する一方である。理由としては離婚率が上がっているからに他ならない。厚生労働省が2019年に行った調査によれば、約1/3の夫婦が離婚している計算になる。
また、同じく厚生労働省が2016年に行った調査によると母子家庭の数は約123万世帯である。
もはや母子家庭は1つの家庭のスタイルであり、一般家庭と同様の権利を得られるはずなのだ。母子家庭と一般家庭のあらゆる格差がなくならなければ、母子家庭で育った人と一般家庭で育った人とのあらゆる格差もなくならない。子供は等しく健やかに成長する権利がある。
今回は「母子家庭で育った人」を取り上げてみたいと思う。未だ完全にはなくならない格差の中で逞しく成長し、未来を創る貴重な人材となっている彼らにスポットを当ててみたい。
記事の内容
- 母子家庭で育った人の子供時代
特徴や傾向など - 母子家庭の子は優しい
母子家庭の子はそうである事を言わない
長女は辛い立場かもしれない - 母子家庭で育った人が大人になった姿
男性の特徴
女性の特徴 - 父子家庭で育った男性の特徴
- 母子家庭で育った人の恋愛
恋愛が出来ない?
離婚しやすいのか? - 母子家庭で育った人は、優しさと寂しさに蓋をして生きてきた
- 総括
執筆:TANOKUN
母子の絆:困窮する母子家庭の救済・一人親の支援
母子家庭で育った人の子供時代・特徴など
母子家庭で育った子には、母子家庭となった背景によって育ち方に違いが生まれる。「死別か離別か」「母親から愛情を受けて育ったと思っているかいないか」「自身と父親との関係は良かったか悪かったか」「母親に経済力があるかないか」などである。
これらの要素に自身が男性か女性か、などという違いも加わってくるが、共通して言えるのは「優しい」という事である。
母子家庭の子は優しい
母子家庭の子は優しい。
もちろん一般家庭の子も優しいのだが、母子家庭になってからの母親の苦労を目の当たりにしているので、母親を助けようとする気持ちが人一倍強い。
母子家庭になってからの母親の苦労というのは、職探し、保育園探し、部屋探しは序の口だが、その序の口でさえなかなか突破できなかったりする。
今では、ハラスメントだのコンプライアンスだのとやっと騒がれ始めたので、ない例かも知れないが、少し前までは部屋探し1つにしても不動産屋に「母子家庭は家賃を払うという信用がないので大家さんが断るんです」などと平気で言われていたのだ。
根っこにある気持ちは恐らく変わらないだろうが、今は社会的制裁を受ける事になるのでそういった話は表面には出て来なくなっている。
そうして断られる事を繰り返し、やっと見つけたあまり日当たりのよくない部屋でも、何とか子供と明るく生きていこうとする母親を見ていれば、母親を助けたいと思い優しくなるのは自然な事だ。一般家庭では母親のこうした姿を見る事はないだろう。
母子家庭の子の優しさには深みがあるのだ。
母子家庭の子はそうである事を言わない
母子家庭の子供は母子家庭である事を言わない傾向がある。
子供は今ある環境が「普通」なので、一般家庭の割合が多ければ両親が揃っている事が「普通」になり、普通でないものは子供らしい残酷さで駆逐する為、少数派は知られないようにする事が防衛手段なのだ。
もし、母子家庭だらけのクラスに1人だけ一般家庭の子供がいたら、勢力図は全く逆になっているに違いない。
学校の先生も、波風を立たせずに子供たちに過ごさせるには母子家庭である事を一緒になって明らかにしない、という動きになる。その割には学校で「父の日」の絵などを描かせたりするのだ。
この「父の日」を、母子家庭の子はあまり好きではないと思う。父がいないからではない。担任がこっそりと「○○さんは、描きたい人を描いていいよ」というあまり上手くない気遣いをするからである。そして子供達が描いた絵を教室に貼り出す。○○さんが描いたのは誰なの?という話になる。先生の「こっそり」は全く意味をなしていないというわけだ。
「自分に寄り添ってくれているようで、実は表面的なパフォーマンスという結果になってしまっている。けれども先生に悪気がない事は分かっている」こうした複雑な状況に日々向き合って生活していると「多くを語らないのが得策」という知恵がつくのもうなずける。
そんなわけで母子家庭の子供は友達や大人と上手につきあう事が出来ていても、心の中をさらけ出している事は少ないのではないだろうか。そして家では母親を健気に助けようとする。本当の気持ちは隠し続けたままなのかも知れない。
長女は辛い立場かもしれない
母子家庭になると、母親は大黒柱になる。どうしても家事がおろそかになってしまう。
長女がいると、まだ小さいころから家事を受け持つことになる場合が多い。それは一般家庭の長女がたまに母親の料理の手伝いをするのとはわけが違う。日々の生活に家事が組み込まれているのだ。
下に弟妹がいるならその世話もおのずと長女の役目になってしまう。母親は毎日仕事で疲れて帰ってくるので母親に甘える事も出来ない。そして毎日毎日家事をこなす。
母子家庭になると、長女の負担が一番大きくなる。母親は長女が友達と遊ぶ時間や宿題の時間や部活の時間を犠牲にしていないか、甘えたいのに我慢していないか、よくよく気にかけてあげる事が大切である。
母子家庭で育った人が大人になった姿
前述したような子供時代を経て、多感な思春期を越えて、母子家庭で育った人が大人になった姿はどのようなものなのだろう。一般家庭に育ち大人になった人からはどう見えているのだろうか。
少し調べてみようとしたが「母子家庭で育った人の性格」というテーマの記事が多くて驚いた。このテーマの記事が多いという事は、母子家庭が一般家庭と同じような1つの家庭のスタイルなのだ、という認識にはほど遠いという事だ。
「母子家庭で育った人は一般家庭と違うのだから、性格も掴みにくいのだろう」という思い込みの下に書かれているのだろう。
ここでは社会からそのように思われながらもしっかりと成長した彼らについて述べていく。
男性の特徴
母子家庭で育ち、大人になった男性は自分の考えや人生設計がしっかりしている傾向にある。子供の頃から母親を助け、中学生や高校生になり、身体が大きくなってくると逆に母親が頼りなく見える事もあっただろう。
母も息子を頼りにするようになり、父親代わりのような側面も持ちながら大人になったと思われる。
それは、自分自身に何かがあった時に頼る誰かがいなかった、という事でもある。
自分一人で物事を解決出来てしまうので、早くから精神的に自立している人が多い。経済的な事情もあるかも知れないが、同世代の中でも社会に出るのが早く、大人びた考え方をするようになっている。
母子家庭である事は子供の頃に比べると言う必要もなくなってくるので、周りからは頼りがいのある人と思われているのではないだろうか。ただ少し、甘えが見える人に対して厳しいところがあるかも知れない。大人びてはいても若さゆえに許容範囲はまだ広くはない。
女性の特徴
やはり男性と同じようにしっかり者の女性が多いようである。子供時代から「手伝い」という範囲を超えて家事を分担してきている為、家事能力は素晴らしいものがあるに違いない。
女性の場合は年を重ねるほどに、母親が自分の年齢の頃は…と、母親を比較して考えるようになってくる。
その事で母親の生き方を理解できる人と、母親のようにはなりたくない、という考えになり、大人になってから母親とうまくいかなくなる人もたまにいるようだ。
人付き合いはそつなくこなすが、母子家庭で育った男性と同じように許容範囲はまだ広くはなく、若干個人主義な所があるかも知れない。
例えば甘えが見える人に、女性の場合は指摘をすると険悪になるので距離を置く、という考えになるからだ。
父子家庭で育った男性の特徴
さてここで、父子家庭について少し述べたいと思う。母子家庭との興味深い比較になるかも知れない。平成27年度の国勢調査によると父子家庭は約70万世帯である。
父子家庭で育った男性は、気持ちの伝え方が不器用になる傾向があるようだ。
父親は子供に弱い所を見せないように振る舞い、息子が弱々しい大人にならないようにとの思いから、あまり甘やかす事をしない。
男同士なので言葉でのコミュニケーションはあまり得意でない事もあり、家での会話もあまり多くはなく、そのままぶっきらぼうな大人になる事が多い。
このタイプの男性は、女性のにぎやかさが苦手な事が多いので多少気遣いが必要かも知れない。
母子家庭で育った人の恋愛
母子家庭で育った人だからといって、恋愛に関して特別何かがあるわけではない。しかし、母子家庭で育った人は母親の事が頭のどこかにあるものである。小さな事だとデートの帰宅時間だったり、少し大きな事だと泊まりがけの旅行はあまり乗り気ではなかったり。
若いうちの恋愛だと、親の方が大事なのかと理解できずに別れに至ってしまう事もあるかも知れない。しかし、母子家庭で育った人は別れ際もあまり相手に執着しない人が多い。
「大切なものでも離れていくものだ」という家庭の崩壊を子供の頃に経験しているので「そんなものだよね」という諦めと、どこか納得がいったような気持ちになってしまう。
恋愛が出来ない?
では母子家庭だと恋愛は難しいのだろうか。もちろんそんな事はない。子供の頃から、母親を大事に思う気持ちを持ち続けて大人になっているのである。誰かを大切に思う気持ちはむしろ人一倍ではないだろうか。ただとても現実的なのである。若さならではの、一時の「大好き」な気持ちが続くものではないことを知っているからだ。
「結婚しない限り別れはいつか訪れる、いや結婚したって親が離婚したからこそ今の自分があるのだ」と思うと、とても恋愛に夢は持てないだろう。その先の結婚など全く願望がない人も多い。それを理解し、自立心の強さを尊重し、寄り添える芯の強さがある人ならば恋愛関係は充分成立するだろう。
母子家庭で育った人は、決して一人で生きていきたいわけではないのだ。
離婚しやすいのか?
昨今の離婚事情を考えてみよう。40代~50代の人達の親の世代の離婚率はとても低い。しかし今の40代~50代は離婚たけなわである。という事は離婚しやすいのは母子家庭で育ったからではない。
とは言え、冒頭で約1/3の夫婦は離婚すると述べたが、その1/3が離婚したところで残りの2/3は離婚せずにいるわけであるから、離婚という事に抵抗を感じる人の方が多いのは確かである。ここの所が母子家庭で育った人には比較的低いハードルかも知れない。
何しろ子供の頃に自分を守ってくれるはずの両親の離婚を経験しているのだ。離婚というものに対する耐性があると思っている人も多いだろう。
しかし、親が築いた家庭が崩壊するのと、自分で築き上げた家庭が崩壊するのは全く違う。それが分かっている人は、結婚に至るまでに時間がかかるかもしれないが、結婚した後は「親の二の舞いにはなるまい」と心に誓い、家庭をとても大切にする人になるに違いない。
総括:母子家庭で育った人は、優しさと寂しさに蓋をして生きてきた
母子家庭で育った人について述べてみた。母子家庭で育った人は、子供らしいわがままを言う機会を逃したまま大人になってしまっている。
子供ながらに親に尽くし、兄弟に尽くし、自分を犠牲にしてきた部分は確かにあるのだが、改めてその事を考えたところで事態は何も変わらないので「考えても仕方ない」と犠牲を気にしないように生きてきている。
そしてそのまま大人になっているので「鈍感になる事でやり過ごす」という技術が身についている。
こうした部分が周りから見ると近寄りがたかったり扱いにくいように見えるのだろう。蓋を開ければ年齢なりの感受性があるに違いないのだ。
そんな彼らに必要以上に気を遣う事はない。誰しも育った環境は違う。1つの特性として受け入れ言いたいことを気兼ねなく言い合えるような関係が築ければ、母子家庭で育った人も今までにないような新しい人間関係を構築する事ができるだろう。
その世界はきっととても刺激的なものに違いない。
今回述べたことが新たな人間関係を構築する一助になってくれる事を願いたい。